会長あいさつ

      人々を生活者として捉えるための人間性の醸成を担う看護図書館

 

 このたび日本看護図書館協会の会長を拝命いたしました岐阜県立看護大学の藤澤まことと申します。会員の皆様の活動が円滑に進められるよう精一杯努力する所存です。何卒よろしくお願い申し上げます。

 2020年度から新型コロナウイルス感染症拡大により逼迫する医療状況の中で、日々の看護実践に携わっておられる看護職の皆さまには心より敬意を表します。またコロナ禍におきましても教育・研究の質が担保できるようご尽力いただいております図書館職員の皆様にも、深く感謝申し上げます。

 コロナ禍において、人との接触を避け、ソーシャルディスタンスを取るなど行動制限が求められ、人々との信頼関係を基盤とする看護学の教育場面も大きく変わりました。本学の看護技術の演習では、患者役を生身の学生からモデル人形に替えて技術練習を行いましたが、初学者である学生にとっては、モデル人形を患者さんと捉えることができず、一言も声掛けすることなく、黙々と手順に沿って技術を提供していました。それまでは、学生自身が患者体験をすることにより、漠然とした不安感や羞恥心等を実感し、声を掛けられた時の安心感を体験することで、患者さんに対する配慮の重要性を学んでおりましたが、そのような対人関係のプロセスを学ぶ機会を失っていました。なかでも臨地実習は、看護の対象の生活の場に出向き、生活者への多様な生活支援について考える貴重な機会です。しかし、病院や施設側の事情や、患者さんや利用者さんへの感染予防のために、学内実習に振り替える場合も多々ありました。

 そのような状況の中でも、本学では図書館で学外アクセスシステムや動画教材を迅速に活用できるように整備したことにより、学生が看護実践現場を疑似体験しながら、患者さんに合わせた支援を考え看護過程を展開していくことができたと考えております。

 看護の対象を生活者として捉えるためには、その人を「病気をもつ人」ではなく「長い時間の中で培われた自分の価値観や生活信条をもちながら生きる人」として捉える必要があります。その人は人生の主体者であり、意思決定によって生きている人であり、必要な支援が得られれば病気をもちながらも、自分なりの生き方を見出だす力をもつ人です。それぞれの人の異なる人生に寄り添い、必要なケアを創生する能力は、知識の修得に加えて人間性の醸成とともに培われるものであると考えます。学生が看護の対象を生活者として理解し、必要な支援に向け思考を発展させるためには、個々の学生が自身の人間性を高めるために主体的に学修する必要があり、その際、図書は欠かすことのできない資源となります。すなわち看護図書館は、学生の人間性の醸成を支援するうえで、非常に重要な役割を担っていると考えます。そこには図書館職員の皆様の看護教育へのご支援が不可欠であると考えます。今後とも学生のみならず、教員の教育・研究へのご支援も引き続き何卒よろしくお願いいたします。

 

                                     2022年7月    

                                   日本看護図書館協会  

                                    会長 藤澤まこと  

                     (岐阜県立看護大学)